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徒然日々のこと―金色輝歌―

金は色の純にして濃きものである。富貴を愛するものはこの色を好む。栄誉をこいねがうものは必ずこの色を撰む。盛名を致すものは必ずこの色を飾る。磁石の鉄を吸う如く、この色は凡ての黒き頭を吸う。この色の前に平身せざるものは、弾力なき護謨である。
      漱石
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☆華馨る秋
金木犀の爛漫。
一斉に咲き乱れた華に大気は甘く香ってヰる。
まさに今こそ爛漫。
細やかな花弁が熟れきり、重ったるい風情 風に揺る 
糜爛する瀰漫 ぷらんぷらんと腐乱 
華馨る秋―

☆金色輝歌
さればとて、殊更意識するというわけでもないが、日々の生活のその中にも金木犀の甘い香りが漂ってヰる。散策にうちでて、ゆらゆる揺りゆる花々をながむるるに、黄金。たゆけた金襴の夢に堕つ。眠けまなここすりて、我、寂莫の忍びよるを知り、日々愁然、ああ、連綿たる日々の疎ましくさえある有耶無耶の累―羽虫のぶんぶん啼くに似て、こんぐらがった思い煩いに頭を垂れる。そのまま歩みゆけば、電信柱にゴッツンコ、尻鳴るにぺたり。果実の実りなれば心躍らんにせよ、その実、さも重きをもてあぐぬるる―と散る蛍光色の星々の中で我思わん。馨り吸えども、吐けども、おどらしむる我が身の滑稽に鵜コッケヰ。喉もとより沸く鳴声はコケェィ。コケコケコッケイコケコッケェ!―などと戯れに音おどらすれば、秋の暮れゆきも押しとどめられしものだろうか―いくら行けぞ時。時の轍をまわる命の暮れゆきに、すぐ傍らの死を眺め、その大海の色を思ふ。

木がらしや目刺にのこる海のいろ
               龍之介

☆落ち葉
朝に茜―夕はさざめく銀色。
色彩の鮮やかなる憂鬱に身をひたせば、ヴィオロンの溜め息の風、冷たかりし候。
鳴くキリギリス、蟋蟀は夜に跳ね、影落とす。蒼白き月光の其の中で―

落ち葉の暖色にくるまれ惰眠貪りし蟲たちの褥踏む。
さだめくうらぶれし歩みの果て、風に舞う落ち葉の乾きし音の耳掠めるに、杳。
暗然たる酒に酔うのは頭ばかり。色褪せるのは心の綾ばかり。

ああ とりもどせようか―あの彩りを。
げに慰みの音葉はやってきて、慰撫しているものの、聊かも慰みにはならず。
なにをもって我生きたるものかと風に問えど、やってくるのは、音葉ばかり。

落ち葉の音葉ばかりなのである。
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☆華馨る秋
金木犀の爛漫。
一斉に咲き乱れた華に大気は甘く香ってヰる。
まさに今こそ爛漫。
細やかな花弁が熟れきり、重ったるい風情 風に揺る 
糜爛する瀰漫 ぷらんぷらんと腐乱 
華馨る秋―
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