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東京スタディーズ 赤川 学, 吉見 俊哉, 若林 幹夫


東京スタディーズ


吉見 俊哉 若林 幹夫 / 紀伊國屋書店



「横断性」という都市の視座。もし「都市」とは何かときかれれば、外国を含む様々な都市と辺境の横断によって培われた感性こそが僕の考える「都市性」だといいたい。例えばヴェンダースの映画がそうであり、それに付随してイメージ化された山本耀二がそうであるように。

 この本は表紙のPOPさとは異なって、都市の批判的な解体を目指したものである。東京とその周辺の縦軸の時間と横軸の空間が多様な視点、多様な著者によって語られている。一つ一つの論述に言及するのは煩雑なので避けるが、玉石混合、文学性の欠如が明らかでやや「学者馬鹿」的感性の不在を感じるものから、身を張ったフィールドワーク、映画、音楽、TVドラマ、マンガにいたる都市表現分析まで多様な視座から立体的な東京の姿を映し出している。いわゆる消費に向かうベクトルの消費物としての都市論ではない。むしろ都市を、そしてその成立させている装置を解体し、それに批判を加えるという意味で広義の権力批判となっている。都市論というよりは都市批判論といったほうがいいかもしれない。個人的には脱力化と島宇宙化の観点からお台場を捉えた「余白化する都市空間」、ディズニーランドとの対比から六本木ヒルズを「ウェブデザイン的」と捉えた「迷路と鳥瞰」、湘南から占領の記憶を描く「ベースとビーチ」、情報誌の変遷を通じていかに都市文化への批判性が衰退していったかを記した「「シティロード」と70年代的なものの敗北」、秋葉原の変遷から新しい固有性の可能性をさぐる「おたく」の聖地は予言する」、性を通じて二元論的な対立の無効を訴える「東京の性はどこに消えたのか」などに鋭い批判性を感じた。

 案外章間の短い雑学エッセイが楽しめた。
 銭湯が新潟人の経営者の方が8割を占めるとは知らなかった。

 ただ章によっては執筆者が簡単な物事をあえて複雑にしすぎる嫌いがあり、これだけ限られたページ数で展開するには、やや概念を折り畳みすぎた印象を受けた。短すぎて何だか物足りなく、何を言いたいのかよくわからない章もある。さすがにこれだけ執筆陣がいると色々である。
by tomozumi0032 | 2005-11-18 19:51 | 哲学批評評論
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